消えていく文化遺産を3Dで残す:自治体・教育委員会のための3Dアーカイブ入門
2026-10-01

屋根が抜け、壁が剥がれ、床から木が生えてくる建物は、次の冬を越えられるとは限りません。
指定文化財であれば、調査や記録の予算がつきます。けれど地域には、指定や登録には至らないけれど、地域の歴史を語るうえで欠かせない遺構がたくさんあります。戦前の駅舎、旧発電所、閉校した校舎、古い商店街。こうしたものは、記録されないまま失われていくことが少なくありません。
この記事では、そうした遺構を3D(3D Gaussian Splatting)で残す方法を、自治体や教育委員会の方向けにまとめます。
実例:愛宕山ケーブル 愛宕駅跡
京都・愛宕山の山中に、戦前のケーブルカー「愛宕山ケーブル」の駅跡が残っています。1929年に開業し、1944年に戦時中の「不要不急」路線として営業を終えたあと、二度と復活しませんでした。レールは供出され、駅舎と階段状のホームだけが残っています。
この駅跡を、立ち入りが制限されていない範囲からミラーレス一眼で撮影し、歩いて回れる3Dとして記録しました。
ページを開くと、駅舎の中に立った状態から始まります。マウスやスワイプで、そのまま歩くように見て回れます。
写真・図面と何が違うか
写真は、撮った人が「撮ろう」と思った方向しか残りません。図面は形を残せますが、質感や光は残りません。
3Dで記録すると、次のものが空間ごと残ります。
- 壁の剥落、鉄骨の錆、床の割れ —— 傷み方の細部
- 部屋と部屋、階段とホームの —— 位置関係と高低差
- 窓からの光、暗い奥 —— その場の空気感

あとから「あの部屋の壁はどうなっていたか」を確かめたくなったとき、写真には写っていなくても、3Dなら見に行けます。
自治体での使い道
- 調査台帳・記録として:指定に至らない遺構も、その時点の姿を空間ごと残せます
- 経年比較:数年おきに同じ場所を撮り直せば、傷み方の変化を比べられます。補修や保存の優先順位を決める材料になります
- 郷土学習の教材:学校や公民館で、教室から現地を歩いて見せられます。山の中や危険な場所でも、子どもを連れて行く必要はありません
- 立ち入れない場所の公開:老朽化で立ち入りを勧められない建物も、安全に「見学」してもらえます
- 観光・地域の発信:来訪前の予習や、ガイドの下調べに。リンク1本で共有でき、見る側にアプリは要りません
- 崩落・解体への備え:災害や解体で失われる前に、最後の姿を残せます
先行事例
国内では、福島県大熊町が、中間貯蔵施設の中にある熊町小学校を、レーザー測量と3DGSで記録し、メタバース空間で公開しています。原子力災害で立ち入れなくなった場所の記憶を、町のデジタルアーカイブとして残す取り組みです。(キャドセンター)
ほかの分野の事例は3DGSの活用事例まとめに整理しています。
水辺や屋外の遺構も

建物の中だけでなく、屋外の遺構も記録できます。摺子発電所は、水没した旧発電所の遺構を記録したものです。水面への映り込みのような、写真測量では扱いにくいものも、見た目のまま残せるのが3DGSの強みです。
導入前に知っておいてほしいこと
正直にお伝えしておきたい点が3つあります。
測量の代わりにはなりません。 3DGSは「見た目」を残す技術で、ミリ単位の寸法を測る用途には向きません。図面や寸法が必要な場合は、レーザー測量と組み合わせるのが確実です。
所有者と立ち入りの確認が先です。 撮影の前に、所有者・管理者の許可と、立ち入ってよい範囲を確認します。危険な場所には入りません。
公開範囲は選べます。 一般公開だけでなく、URLを知っている人だけが見られる形(検索エンジンにも載らない形)で、庁内や学校だけに共有することもできます。
予算化の進め方
自治体の予算は、秋から冬にかけて翌年度の分が組まれます。春になってから相談すると「今年度は予算がない」となりがちなので、来年度に記録したい場所があるなら、秋のうちにご相談ください。
まずは1か所を試しに記録して、庁内で見てもらうのが確実です。見積もりの資料が必要であれば、対象の規模に合わせて作ります。文化財の保存やデジタル化に使える補助金・交付金との組み合わせを検討されている場合も、あわせてご相談ください。
撮影から納品まで
- 現地の下見と撮影:対象の規模により、半日〜1日
- 3Dデータ化
- Webビューアとして納品:埋め込みコードをお渡しします。庁内のサイトやデジタルアーカイブに貼るだけで表示できます
撮影から納品まで、通常2〜3週間です。元データの保管方法もご相談ください。
「この建物は3Dにできる?」という段階のご相談も歓迎です。お問い合わせからどうぞ。